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オビの家

柴犬と家族のための小さな庭

2020.06

愛知県豊田市に建つ、4人家族と1匹の犬のための庭の計画である。

これまで「みる」ための庭として楽しんできた庭を新たに「つかう」庭として考えた。

庭の前に建つ住まいは、木を基調とした温かみのある壁面にシンプルな構成で居室が設けられている。庭に面した部屋には開口はなく、シアタールームとして機能する。

敷地の角に位置したこの庭は、家族が可愛がる一匹のわんぱくな柴犬「オビ」のための「家」でもある。

 

ヒトに比べ、イヌの視点はとても低い。

試しに犬と同じ目線になってみると、その視界に映るほとんどが地面であることに気づいた。地面の表情を多様にすることで、オビの一生でとても長い時間を過ごす「家」を豊かにすることを私たちのテーマとした。

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計画前の庭

もともとの庭に使われていた石は捨てずに、配置や据え方を変えて、全く異なる庭を生み出した。蒼く曇った石は美しく、大きさや形をひとつひとつ記録し美しい面が床になるように並び替えている。

穴を掘ってしまうオビの習性を考え、オビがよく過ごす小屋の周りや隣人との境界面になる場所に石を敷いた。

これまでオビの目線よりも高い位置にあった石は、足元に並べられ次第にシバに覆われてゆき、雨の日はツヤツヤとした岩肌の表情を楽しむことができる。

また、ほふく性のあるクリーピングタイムやハイネズを用いることで、シバだけでない植栽により多様な地面の表情をつくった。

植栽は、犬が食べても毒性がなく安全であること、子どもたちも収穫が楽しめることから果樹や、料理にも使えるようなハーブや果樹を取り入れた。

 

また、鼻がよく効く犬の多くは散歩中に草木の香りを楽しむことがある。

オビの顔の位置からでも香りがわかるような低木や、犬が視認できる青や黄色に近い花や葉をもつ、ヤマブキやユキヤナギ、ツワブキ、ノコンギクを植えた。

高木には、東海丘陵要素植物であるシデコブシ(東海固有種)やヒトツバタゴを入れることで、周辺の豊かな里山の自然から蝶々や鳥が訪れることを期待している。

 

計画地一帯は新興住宅地であり、整然と区画割りされた家々が立ち並ぶ。

車が主な交通手段である、坂道の多いこの街では簡素なブロック塀が街の表情を作り出していた。

庭は道路にも面しており、街並みをつくる顔にもなる。

生垣には、シデコブシと花弁がよく似た白花のトキワマンサクを用いた。

 

庭にはオビが眠るための犬小屋の他に、新たにコンクリートでできたベンチを配置している。土木用の浸透マスをつなぎ合わせたこのベンチは、夏の強い日差しから隠れられる。オビの避暑地になることを期待している。

また、バーベキューや庭遊びで休憩するためのひとの居場所にもなり、建築に付随する連続したベンチと向き合いおしゃべりすることもできる。

ひとりになったり大勢になったり、オビと家族が一緒につかうことも出来るベンチである。

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​オビの目線で見る庭

犬走と芝生の境界には白いv字型の陶器が並ぶ。

焼き物を焼く際に用いる窯具である「ツク」である。

焼き物の産地、岐阜県土岐市の廃業になってしまわれた方からお譲りいただいた。

長さ10センチほどのツクを地面に埋め込むことにより、シバの排水と雨の日にオビが泥だらけになってしまうことを防いでいる。

ある側面では、廃材となった地域資源を新たに活用していく小さな一歩になっていたら嬉しい。

コロナ禍で長い時間を家のなかで過ごす今だからこそ、

身近なみどりを積極的に使っていく知恵や機会がふえれば、限られた敷地のなかでも豊かな暮らしにつながるのではないかと考えている。

 

家族の成長とともにある庭が、オビにとってもあたたかい家になっていてほしい。

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上:岐阜県土岐市の窯業を営んでいた方

 下:焼き物を焼く際に用いる窯具「ツク」

​(協力:tanaka hajime)

竣工|2020.06
規模|
住所|愛知県豊田市
内容|住宅
施主|個人

施工|岩間造園株式会社

建築|高池葉子建築設計事務所

​写真|SfG

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